「夢の泪」
井上ひさし先生、やっぱり直前まで書き上がらなかったのかなぁ……という印象。役者さんも頑張ってるし生演奏の音楽も悪くはないけれど。なんかいまひとつ消化不良感が……。まぁ東京裁判の問題点をわかりやすく紹介してくれているので勉強にはなるけれど、逆にいうと説明的なセリフも多くて「教科書的」な雰囲気は否めない。それに、問題を提起したはいいけど解決させないままラストを迎えてしまうので、ちょっとそこんとこがかなり物足りない。そりゃ解決してない問題なのかもしれないけれど、ちゃんとそこに作者の意見や答えを用意して欲しいと思った。しっちゃかめっちゃかになってしまっている「日本」の状態を途中まできっちり描いておきながら、ラストは「数年後」で逃げてるような気がして……。「井上ひさしブランド」に対する信頼感が高いせいもあるけれど、今回はちょっと物足りなかった。まぁ客席を埋める年配のお客さんはそれなりに満足していたようではあるから、これは世代によって感想が別れるところかも。
初日舞台写真→ http://www.nntt.jac.go.jp/frecord/play/2003%7E2004/yume/yume.html
詳細はこちら→ http://www.nntt.jac.go.jp/season/s209/s209.html
- 【スタッフ】
- 作 ：井上ひさし／演出 ：栗山民也／音楽 ：宇野誠一郎／編曲 ：久米大作／美術 ：石井強司／照明 ：服部 基／音響 ：山本浩一／衣裳 ：前田文子／演出助手 ：北 則昭／芸術監督 ：栗山民也／舞台監督 ：増田裕幸
- 【キャスト】
- 角野卓造／三田和代／高橋克実／藤谷美紀／福本伸一／熊谷真実／石田圭祐／キムラ緑子／犬塚 弘
演奏 ：佐藤一憲／佐藤 桃／木下和人／佐藤拓馬／朴 勝哲- 作品解説
- 東京裁判を紙芝居屋さんの目から見るという発想から、それを音楽入りの叙情詩劇にするという表現を得て誕生した前作「夢の裂け目」（2001年5月）は、「時代と記憶」をテーマにした2000／2001シーズン小劇場新作連続上演のなかで、重いテーマを庶民の視点から大胆に問うた作品として高い評価を受け、多くの観客に支持されました。なかでも音楽劇という枠組自体を越えたえたその豊かな音楽性は、緻密に組み立てられたドラマのそれぞれの人物の心理を解放し、また説明的な舞台装置を積極的に排除することで、より拡がりの可能性を持たせた劇空間を創りました。
「夢の裂け目」は、井上ひさしがかねてから構想していた「東京裁判」をモチーフにした三部作の第一部であり、今度の第二部「夢の泪」は設定、登場人物等を変えながらも、井上ひさし独特の視点から、日本人を、日本の社会を考える舞台が描き出されます。とりわけ今回は、世界を大きく変えた「9・11」以降の世界全体が抱える問題ともいえる、東京裁判で日本が裁かれた「人道と平和に対する罪」について、さらに日本人にとっての戦争責任という大きなテーマを軸に、面白くも深い井上ひさしならではの世界が展開されます。
歴史的な裁判に関わらざるをえなくなった人々の敗戦直後の困難な生活を活写し、東京裁判の現代史的な意義を追求する深刻すぎて滑稽な音楽劇仕立ての重喜劇。演出の栗山民也ほか円熟のスタッフ陣、角野卓造・三田和代ら確かな演技で定評のある多彩な出演者を揃え、生バンドの演奏入りで軽やかに楽しく魅せる話題作を、どうぞお楽しみください。
