「おはつ こひのてほん」

細かいことを言うなら色々とツッコみたいところはあるのだけど、まぁでも役者さんがみんな魅力的なので、3階席料金なら十分楽しい内容。脇役にも小劇場役者さんが多く、ここはパルコか本多かと思うようなシーンもあったけれど。まぁまぁ満足。
とはいえ、メインのカップル(松たか子佐々木蔵之介)は、もうちょっと「出会ってはいけないふたりが出会ってしまった」という運命的なところが欲しかった気がする。美男美女カップルだけに観ているのは楽しいのだけど、周りを巻き込んで不幸にしつつも「このふたりを応援したい」と思わせるだけの説得力には欠けた気がする。ふたりとも感情より理性が強そうな大人のイメージがあるからかなぁ……。時々ふたりがただの自分勝手な人たちに見える瞬間があるのがどうにもこうにも。「頭では解ってるんだけどどうしようもないんだ」というくらい、ふたりの感情が大きく動いてるあたりを見せて欲しかった気がする。生きるの死ぬのとあっちいったりこっちいったりするあたりもいささか唐突な感じは否めないし。それに、対する小市慢太郎さんの役があまりにもイイ人すぎるだけに、「おはつさん、正太郎にしとけよ、直助より絶対そっちのほうが幸せになれるって……」と思ってしまうのが正直なところ。まぁ設定上「ただのわがままな娘」になりかねないおはつを、松さんはなんとかギリギリのところで巧く演じてはいると思うのだけど。もうちょっと可愛らしく愛嬌があっても良かったかなぁと思う。どうにも意志の強すぎる娘さんに見える時もあったし。
近藤勇渡辺いっけいさん、実直な感じで好印象。せっかくいっけいさんが出てるのに「出番これだけ?」という気もしないでもないけれど。江波杏子さん、さすがベテラン。カッコイイ。ちょっとした間で沖田への複雑な気持ちを見せるあたり、うまいなぁ。沖田役の北村有起哉さん、最初チラシの写真を見たときは「えぇ、これが総司?」と正直思わないでもなかったけれど。実際にはかなり美味しい役だった。脳天気な雰囲気を漂わせておいて、決めるところでキチっと決める。女子的には一番グッと来るパターンで良かった。カッコよかったなぁ。サトエリこと佐藤江梨子ちゃん、体当たり系演技。決して巧いとはいえないけれど、あのゴリゴリの舞台役者ばかりの中で堂々とよく頑張っていたと思う。
舞台美術は松井るみさん、ほとんど暗転なしで転換できるような美術を巧く作ってる。柱をざくざく立てた上に鮮やかな丸絎の紐をたくさん渡して森に見立てたり、その柱を少しだけ残してのれんと障子枠であっというまに廓に見立ててしまったり。演舞場芝居といえば暗転が長いことでおなじみだけど、さすが。演出は……さすが鈴木裕美さんというか、血のり使いすぎ(そういや蔵之介さんがマクベスやったときも血のり使いまくってたなぁ)。ラストでおはつが死んだ後、カーテンコールも血だらけの着物ででてきたのには軽く驚いた。普通着替えるでしょ! そこは早替えでしょ! 着替える時間がないなら、他の役者さんをひとりひとりカーテンコールに出して時間持たせるでしょ! などと心の中でつっこんでしまった。蜷川さんとかでも血ぃつけたままカーテンコールって観たことない気がするんだけどなぁ。

詳細→ http://www.shochiku.co.jp/play/enbujyo/0401/index.html

あらすじ
時は幕末、文久三年の秋。大坂新町の「かや乃」という店にお初(松たか子)という名の女郎がいた。哀れにも胸を病み、今日も密かに喀血をする。そんなお初の望みはただ一つ。この命が尽きる前に、せめて狂おしいほどの恋をしてみたい。幼い頃から憧れていた「曽根崎心中」のお初、徳兵衛のように。
 お初にはいつか夫婦になろうと契りを交わした馴染み客、油商「菱屋」の跡取り息子正太郎(小市慢太郎)がいた。正太郎には幼い頃からの無二の親友、醤油商「橘川」の手代直助(佐々木蔵之介)がいる。二人は当節はやりの剣術修行に町道場へ通い、殊に直助は目録を授かるほどの使い手となっていた。
 雨模様のある晩、浪人風の侍に因縁をつけられた直助と正太郎は曽根崎露天神の森で密かに私闘に及ぶ羽目に陥る。追い詰められた直助は不本意にもその侍を斬ってしまう。後も振り返らず逃げ出す二人。しかし一部始終を私娼のおれん(江波杏子)に見られていた。
 おれんは目の前の惨劇がやがて金になるかも知れぬと考える。
 その後、二人は「かや乃」の客となった。そこで、お初に身請けを申し出ている先客に出会う。この年の春、京に誕生した「新撰組」の局長近藤勇渡辺いっけい)である。身請け話を前に覚悟を迫られるお初。正太郎との恋のゆくえは・・・そして、やむを得ない事情とはいえ人を斬ってしまった直助の身は・・・かくして、運命の歯車は大きく軋み始めるのだった。