「タイタス・アンドロニカス」

うっかり彩芸までの時間を見誤り、余裕を持って行くつもりが開演ギリギリの駆け込みになってしまった。不覚。開演前になんだかスタッフの人々が段取り確認するようなことをやっていたようだけど、そこの部分はちゃんと観られなかった。蜷川さんの姿も観られなかった。残念。

舞台美術は白い壁、そして中央に真っ白で巨大な彫像。大きな乳房のある四肢の獣(?)と、その足の下で乳を飲んでいるようなふたりの赤子……といった像が、大きな台座の上に乗っている。衣装もほぼ白一色。タモーラが最初に黒い服を着ていたり、タモーラの息子達が青や緑の原色の衣装を付けていたり、エアロンが真っ赤な服を着ていたりはするけれど。それ以外のタイタス側の人間は白い衣装だった。照明も今回はかなり明るい感じ。

演出は「ザ・蜷川カブキ」という感じでいつもどおりといえばいつもどおり。血で血を洗う惨劇を、血のりを使わずに全て赤い布や糸で表現してる。あいかわらずスピーディにさくさくとテンポよく見せてくれるし、後半はちょっと喜劇的な場面もったり。暗くて陰惨なストーリーを、明るい照明や真っ白な舞台でライトな印象に仕上げている。「生身の血の臭い」は感じない、良い意味で「軽い」印象のタイタスだった。個人的にはラヴィニアがレイプされて舌と腕を切られる場面とか、観客が引くくらいもっと残酷にやってもいいのにーと思わないでもないんだけど(歌舞伎ならこれでもかこれでもかと残虐にやるだろうなぁ)。

冒頭はタモーラ麻実れいさんが主役かと思うような存在感。さすが。でも娘の惨劇を観た後の吉田鋼太郎さんはさすが。一気に主役の座を取り戻した。印象に残ったのはエアロン・岡本健一さん。欲を言うならもっとセリフに凄みが欲しいけど、立ち姿が美しくて鋭い目つきもいい。あんな最低な役を魅力的に見せてしまうなんて。格好良かったなぁ。

詳細→ http://www.saf.or.jp/viewpoint/html/p-027.html

解説
大好評の彩の国シェイクスピア・シリーズ。前作『ペリクリーズ』は、日本国内はもちろん、ロンドンでも大絶賛され、皆様も深く印象に残っているところだと思いますが、いよいよ待望の次回作が決定しました。 作品はシェイクスピア初期の悲劇『タイタス・アンドロニカス』。
 ローマの将軍タイタス・アンドロニカスに長男を殺されたゴート族の女王タモーラは、タイタスへの復讐を心に誓います。ローマ皇帝の后となったタモーラは、手始めとして息子たちにタイタスの娘を強姦させ、犯人を告発できないように彼女の両手と舌を切り落とします。さらに、計略でタイタスの息子たちを処刑し、その命乞いのため片腕を切断したタイタスの元へ、あろうことか彼らの生首を届けます。娘から強姦犯が誰かを知らされたタイタスは、復讐の鬼と化し、血で血を洗う報復が始まります。
 シェイクスピア戯曲の中でも最もショッキングな内容で、それゆえになかなか上演される機会の少ない作品ですが、あまり知られていなくても面白い作品があるということは、前作『ペリクリーズ』でも証明済みのこと。蜷川さんも、実は永年この作品への意欲を燃やしていました。素晴らしいキャストにも恵まれて、ついに実現することになったのです。演出するには体力の必要な作品だとおっしゃっていますが、それだけに気合い十分、きっと見応えのある舞台となることでしょう。
 主人公タイタス・アンドロニカスは吉田鋼太郎さん、敵役のタモーラ麻実れいさんが演じます。シェイクスピア作品をはじめ舞台経験の豊富なお二人、ともに当劇場は初登場ですが、蜷川演出の『グリークス』や『オイディプス王』で既に共演されており、演出家との息もぴったりです。このほかの出演者も実力派揃い。またまた、見逃せない公演になりそうです。