モダンスイマーズ「五十嵐伝〜五十嵐ハ燃エテイルカ〜」

この劇団は前回の「由希」に続いて二回目の観劇。いやー、面白かった。良くできてたなぁ。話は下の枠内にある通り、学生プロレス同好会のお話。部室を舞台に、四季の移り変わりと共に変化していく状況を丁寧に描いてる。最初は「ダメな男が入部してきたプロレス同好会のドタバタ劇」程度だと思いながら観ていたのだけど。(以下、ネタバレのため白字表記。反転させて読んで下さい)
タイガーマスクに憧れてプロレス同好会に入部した五十嵐。でも、どうもこの男がドジというかなんというか、買い物をいいつけても言われたことを半分は忘れてしまうし、「校門から部室までの地図を書いてくれ」とか言い出す始末。ちょっと尋常じゃない“使えなさ”に部員たちが半ば呆れつつも、その熱心さにほだされて過ごす日々。そんなある日、五十嵐の妹が部室に乗り込んでくる。聞けば、五十嵐は頭をぶつけて以来、新しいことが覚えられないのだとか。事故以前のことはちゃんと覚えているけど、それ以降のことはすぐに忘れてしまって、メモをとり続けないと何も覚えていられないという(映画「メメント」と同じ症状かも)。だからプロレスなんて無理、退部しろと迫る妹に、五十嵐はどうせ大学をでたら家の手伝いをするくらいしかない人生なんだから、せめて大好きなプロレスだけはやらせてほしいと懇願。家は書道教室をやってて、五十嵐はあんまりそれが好きじゃないんだとか。その熱意に打たれて試合に出してやると、段取りは覚えられないものの、痛々しいまでの必死さで試合を行う彼の姿に観客は喜び、これまでにない動員を記録。でもそんな彼をみてられない……と思う部員も現れ始める。マネージャーはことあるごとに五十嵐をフォローしてなんだかイイ雰囲気。五十嵐はとにかくなんでもかんでもメモを取りまくってなんとか健忘症のハンデをなくそうとする。みんなで合宿してる時は、「花火をした。」そんなことだけがメモに書かれていたり(←泣くところ)。マネージャーにも春に書いてもらった校門から部室までの地図を「今でも役に立ってるんです」と打ち明けて(←ここも泣くところ)告白っぽい雰囲気になったり。でも冬が近づいたある日、一度は引き下がった妹がまたやってきて「症状がひどくなってる」と言う。もうこれ以上はプロレスは続けられない。退部することになった五十嵐だったけど、最後に引退試合を行うことに。試合前、五十嵐はまたマネージャーに地図のことを話し始める。前に話したことを忘れてるのだ。でも、マネージャーは「ごめん、それを聞くのは3回目」そして「私が好きなのは奥寺さん(←引退試合の試合相手)、これは2回目」(←これ、観客はたぶんマネージャーは五十嵐が好きだと思ってる所への不意打ち)。それを聞いた五十嵐、「おかしいな、なんでそんな大切なこと書いてないんだろう」。と、マネージャーが出て行ったあと、ひとり残された部室でそれをメモしようとするけど……結局できず、メモを床に叩きつけてひとり泣き崩れる。やがて泣きやんで最後の試合へ向かう……。で、エピローグ。荷物をまとめる妹。半紙に「闘魂」と毛筆で書き付ける五十嵐。「書けたか?」と言われて「ええ、思ったより簡単なことだったんですね」と、どこかさっぱりした笑顔。そして部室を出て行く直前、奥寺からタイガーマスクのデビュー戦は覚えてるかと聞かれる。事故の前の記憶だから当然よく覚えてる……そしてみんなが見守る中、タイガーマスクの試合をまねて、部室のマットの上で最後の試合。みんなの笑顔の中、ゆっくりと暗転……。
という話なんですな。設定が設定だけに、あざとく泣かせる芝居になりかねないところ。でも役者たちの真摯な演技と丁寧な演出で、ズルさの無い、いい芝居に仕上がっていたと思う。脚本も全体的によくできていたと思うし。もうあちこちに地雷のように泣かすポイントが埋め込まれていて……ええ、泣きましたとも。上のあらすじは五十嵐中心に書いたけど、他のキャラクターのことも丁寧に描写されてるし。プロにスカウトされて出て行ったメンバーが、次の場面で足にギブスをはめて車いすに乗っていたり、いつもつまらなそうにしている新聞部のカメラマンが最後の試合の写真を撮っていたり。切なくも優しい、いい芝居。前回も良くできてると思ったけど、今回も面白かったなぁ。

モダンスイマーズ第六回公演「五十嵐伝〜五十嵐ハ燃エテイルカ〜」

  • 作・演出:蓬莱 竜太
  • 出演:津村 知与支 (モダンスイマーズ)、古山 憲太郎 (モダンスイマーズ)、佐藤 拓之 (双数姉妹)、小椋 毅、中谷 健智 (HUSTLE MANIA)、成瀬 功 (マーク義理人情)、高橋 康則 (マーク義理人情)、高橋 麻理 (扉座)、田口 朋子、加藤 亜矢子 (モンゴルパーマ)、六分一 沙良、なかしま みゆき (エム・アールクリエイティブ)、瀬戸口 のり子、西條 義将(モダンスイマーズ座長)

その男は突然やってきた。
自らを五十嵐と名乗った。
わがT大学、学生プロレス同好会にぜひ入会したいと言った。
気弱そうな奴だ。
それが第一印象だった。
その男が持っているおよそレスラーとは
かけ離れた雰囲気に誰もが戸惑った。
五十嵐伝はそのようにして始まった
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