tpt「エンジェルス・イン・アメリカ」

一部・二部を通して観劇。相当に疲れるだろうと覚悟して見に行ったけど、それほど長さを感じなかった。14時に開演して23時近くに終演だから、これはもはや「グリークス」の時並に「最後まで見た自分と役者に拍手」状態のカーテンコールになるんじゃないかと予想していたけれど、全然そんな感じではなく、フツーに「面白かった!」という気持ちの拍手だった。あの固いベニサンピットの椅子が苦にならないってすごい。ほとんど暗転ナシでガンガン転換していく、テンポのいい演出が心地良い。シンプルな美術もいいし、ちょっとデカダンな感じの「天使」の衣装もいい。見てるうちに、自然とそれぞれのキャラクターに感情移入していってしまう。最初はうざったかったロイ・コーンでさえ憎めなくなってしまうからなぁ。もっと重っ苦しい文芸大作かと思っていたけれど、ユーモアの効いた演出に意外と笑わせてもらった。
エイズ、ドラッグ、同性愛なんてキーワードだけ並べるとついつい「RENT」と比べたくなってしまうのだけど。「愛って大切だよね!」「一生懸命生きようね!」みたいな「RENT」のほうが圧倒的に解りやすくて一般ウケしそう。「エンジェルス〜」は宗教観とか思想とかが絡んでくるだけに、やっぱりインテリ受けしそうだな。実際、「あたしは見知らぬ方のご好意にすがって生きているんです」*1なんてセリフの引用にしっかりほとんどのお客さんがウケてるのがすごいと思った。(その後「およしなさいそんなバカなこと」みたいなことを言って一刀両断するハンナのセリフも笑ったけど)
なんというか、同性愛をめぐる価値観とかもこの時代から比べるとずいぶん変わったよなぁと思わざるをえない。AZT(RENTを見てるとエーゼットティーじゃなくてエーズィーティーと発音してほしくなる)の価値も二つの作品の間にずいぶん変わってるみたいだし。テーマ中心に見てしまうと「なぜ今この作品を?」という疑問は確かに否めないけれど。ま、ケラ作品なんかを見るときと同じように「近過去モノ」として見る分には十分面白い。「RENT」でもすでに「現代社会」からは遠い「過去」になってると思いながら観ていたから、この作品はなおさら「古典の名作戯曲」を見る気分で見てしまった。

http://www.tpt.co.jp/top/season/index.html
new version by tpt workshop 訳◎薛珠麗 美術◎ボビー・ヴォヤヴォッキー 照明◎沢田祐二 音響◎高橋巖 ヘア&メイクアップ◎鎌田直樹
キャスト:朴昭熙 池下重大 斉藤直樹 矢内文章 深貝大輔 中川安奈 山本亨 松浦佐知子 植野葉子 他

解説
1990年ロサンゼルスでワークショップ・プロダクションとしてスタート、ピューリッツァー賞トニー賞('92、'93)他、多数の演劇賞を受賞した「エンジェルス・イン・アメリカ」は世界各都市で上演されセンセーションを巻き起こした。ロンドンのナショナルシアターの“20世紀の最も偉大な戯曲20本”の中に選ばれている('03秋にはアル・パチーノ、メリル・ストリ−プ、エマ・トンプソンで映像化。)今回の上演は「BENT」('02)で大反響を呼んだロバート・アラン・アッカーマンと若手俳優陣に加え、中川安奈、山本亨などの実力派に、ロサンゼルスからボビー・ヴォヤヴォッキーがデザイナーとして参加。8週間のワークショップ・リハーサルを行い、I部・II部を一挙に上演いたします。

*1:テネシー・ウィリアムズ欲望という名の電車」でブランチが最後に言うセリフ