「新・近松心中物語」

昔上演されたのをみていないので初「近松」だったのだけど。うーん、明治座制作の商業演劇としてはまぁまぁ面白く観られたけれど、蜷川作品だと思って観るとちょっと気の抜けた感じ。もう一息! って感じなのだけど……それはやっぱりあの忠兵衛&梅川の心中シーンで雪が少ないからなのかなぁ。あそこで客席まで埋まるような量の雪を降らしてくれたらきっと満足したと思うのだけど。
しかし、この作りでは完全に忠兵衛&梅川よりも与兵衛&お亀が主役。雪よりも水飛沫のほうが盛り上がってたし。決して演技が巧いわけではないけれど、田辺&須藤コンビのほうが感情移入できちゃうし。とことん情けな〜い雰囲気のダメ男で、完全に二枚目の顔をかなぐりすてた田辺誠一と、とことんいじらしくて直球勝負の須藤理彩のほうが、観ていて楽しかった。阿部ちゃんはともかく寺島しのぶは、演技は断然巧いんですがなんつーかこう技巧に走ってる感が……。ま、別につまんないわけじゃないんだけど。
それにしても、せっかく若いキャスト使ってるんだから、もうちょっと若い客層にウケるような宣伝をしたらいいのになぁと思った。結局来てる客層が「明治座的客層」だし。もっと写真に凝ってコクーンみたいなチラシ作ればいいのにーなんて思ったり思わなかったり。二階席がガラガラで驚いたよ……。

http://www.meijiza.co.jp/othe/2004_01.html

  • 亀屋忠兵衛 / 阿部 寛
  • 梅川 / 寺島 しのぶ
  • 傘屋与兵衛 / 田辺 誠一
  • 傘屋 お亀 / 須藤 理彩
  • 丹波屋八右衛門 / 大石 継太
  • お清 / 神保 共子
  • 亀屋 妙閑 / 根岸 明美
  • お今 / 新橋 耐子
作品解説・見どころ
傑作中の傑作と評され既に千回以上の上演を重ねたこの作品に蜷川幸雄が初心に還って再演出。メインキャストを一新し、秋元松代の脚本本来の若々しい愛の物語、ひたすら死に急ぐ若者たちの性急なラブストーリーに焦点を合わせ、名作化した演出を敢えて解体し再組立します。

限りなく人間くささが溢れ出る最新の蜷川リアリズムによる新演出の一作です。
もちろん、本水の川にしぶきを上げて与兵衛は飛び込み、舞台を埋める大群衆の中を花魁道中は進みます。
しかしその時流れる音楽は宇崎竜童作曲の新しい「それは恋」。衣裳の色も柄も辻村寿三郎の新しいデザインで、全てを若さに満ちた新配役のキャストに合わせ、20世紀最高傑作を21世紀の感性で今、リニューアルします。

Story
大阪新町の古道具商の婿養子傘屋与兵衛は、生まれながらに気弱な男。姑お今の気にさわることしばしばで、家を飛び出し、廓にいつづけ、遊女白菊に入れ揚げての毎日。しかし女房お亀の与兵衛への愛は募るばかり。あまりの娘の悲しみを見かねたお今が、新町へ与兵衛を連れ戻しにやってきた。
 飛脚屋亀屋の養子忠兵衛がこの町に足を踏み入れることになったのは、店の丁稚が道で拾った封書の中に一分の金が入っていた為であった。その差出人槌屋平三郎を尋ね歩く途中、偶然出会った飛脚屋仲間八右衛門に案内され、遊女梅川と巡り合う。店に入った梅川を追って、ものの気に憑かれたように再び店ののれんをくぐる。「梅川や、梅川に会いたい。」二人は奥の間に消える・・・。
 新町から連れ戻されて以来、お亀の泣き言と、お今の小言にうんざりしている与兵衛。そんなある日、幼馴染みの忠兵衛がやってきて、愛する遊女梅川を張り合うお大尽が現れ、窮地に追い込まれているという。自分が身請けをせねば梅川も生きてはおるまいとの忠兵衛のたのみに、与兵衛は店の金箪笥をこじあけ、そこにあった五十両を貸す。二人の破局がここから始まる。
 手付金を払った忠兵衛は、とにかくこの急場を切り抜けるが、それもつかの間、八右衛門が、梅川の身請金三百両をお大尽の代理人として持ってきた。もはや後にはひけぬ忠兵衛、胴巻にあった御用金三百両に手を付ける。散乱する小判、科人となった忠兵衛に梅川は・・・「あなたが科人なら、私も同罪でございます。私ひとりに生き残れというなら、一緒に死ねと言ってほしい――」愛の成就と瞬間にしての転落。
 店の金を使い込み忠兵衛とのかかわり合いで科目を受ける忠兵衛は、その日以来家を飛び出し行方しれず。何日か後、人目を忍んでお亀のもとへ詫びを言いに来ると、お亀の愛は親をも家をも捨てさせ、与兵衛との逃避行へと突き進む。
夜更け、月明かりに照らされた蜆川堤に佇む二人。お亀の手には婚礼の祝いに父親からおくられた国光の名刀がしっかり握られている。「科人となったあなたと、泣く泣く引き離されるほどなら、私は死ぬる」と。しかし・・・・・・。
 相擁して吹雪く谷間の雪道を歩く忠兵衛と梅川。二十日余りの道行きの果て、凍てつく雪が重く二人の行く手をさえぎる。梅川は言う。「私ほど仕合わせな女はありませんのや。そう見えますやろ」雪を染める鮮血。重なり合う二人の亡骸を覆い隠すように、雪は降り続ける。