青山円形劇場プロデュース「LYNX」

※ネタバレあり注意。

引きこもりで薬物中毒、ハッカーを引退した若者の妄想を描いた作品。精神世界、妄想といった題材の脚本は古き良き時代(?)の早大劇研っぽいテイストか。あらすじ読んだ時にうっかり「……トランス?」と呟いてしまったのだけど*1。多分初演時に観てたらハマっただろうなぁ、なんて思ったりする。ま、今観ても意外にテーマは古びていないなぁとは思ったけれど、やっぱり「サイバースペース」なんて言葉はちょっと恥ずかしい気もする。「引きこもり」が珍しくなくなった今の時代なら、もう一歩踏み込んだエピソードが欲しいなぁと正直思わないでもない。でもま、青山円形ならではの演出も嫌いじゃないし(ただライトをガンガン使った後で静かなシーンになるとラップ音が気になってしょうがないんだけど……)、なんといっても1時間40分という今時珍しい上演時間のおかげで、飽きずにみていられた。
役者について。主演の佐藤アツヒロくん好演。ヤク中という「いくらでもイヤらしい演技ができる設定」にもかかわらず、あざとさがなくて、やりすぎない演技で好印象。佇まいが自然な感じで、観客をいたたまれない気分にさせない。それってあたりまえのようだけど小さい劇場では重要なコトなんだよなぁ。他の役者さんもそれぞれのポジションで的確に自分の仕事をやってる感じ。橋本さとしさんはアツヒロくんのナチュラルさに比べるとちと演技しすぎかな。どっちが悪いというわけじゃないけど、ああいう設定ならなるべく同じテンションで芝居してほしかった気が。ヨタロウさん、あいかわらず自然にいかがわしくて素敵。

詳細→ http://www.aoyama.org/japanese/schedule/s2004/enkei/4lynx/lynx.html
http://www.aoyama.org/japanese/topics/new.html

  • LYNX」は、鈴木勝秀の構成・演出により1990年、1998年の2回、青山円形劇場において公演し、話題を呼んだ作品です。この作品で描かれる世界は、人間の都市生活におけるディスコミュニケーションから起こる悲劇です。自らを社会から隔離し、自分の世界にさまよい、出口を見失い、鏡やテレビ、電話と会話するディスコミュニケーションに陥った男を主人公として、都市生活者の孤独を浮き彫りにします。都市が人工的に創られたものであるのに対し、人間が、人間らしくあるということは自然に則ったことです。"人工的"と"自然"との共存から生じるヒズミを考えていきます。
  • LYNX 〜リンクス〜」というタイトルは、英語でオオヤマネコを意味しますが、それは作品中、家畜になることを拒み、決して人間に迎合することなく孤高を守り通して死んでいったオオヤマネコのエピソードとして語られます。それと共に同音異義語のLINKS(連結、関係)を意識し、都市と人とのLINK(関係)を描いていきます。
  • 主演は、2000年の初舞台以来小劇場から大劇場まで精力的に走り続け、着実に役を自分のモノにしている佐藤アツヒロが、社会を拒絶した男オガワを演じます。存在するのは自分の世界のみ、現実と幻想の間をさまよいながら自分を見失っていく不安定で繊細な役に挑戦します。
  • 共演は、映画、テレビ、舞台と幅広く様々なジャンルで活躍している橋本さとしが、過激で暴力的なエンドウ役を演じます。最近ミュージカル出演が続いていた橋本が久しぶりにストレートプレイでその勇姿をお見せします。 さらに、青年座期待の好青年鈴木浩介、そしてsuzukatz作品の常連である二人の怪優、ミュージシャンでありながら役者もこなす伊藤ヨタロウ、どんな役でも器用に演じ分ける佐藤誓が脇を固めます。鈴木勝秀が、"完全円形舞台を駆使したsuzukatz play の原点"と豪語する「LYNX」にどうぞご期待ください。

*1:初演はトランスよりLYNXのほうが3年ほど早い。