阿佐ヶ谷スパイダース「はたらくおとこ」

※ネタバレあり注意。
うん、面白かった。多分、長塚くんの代表作になるんじゃないかと思うような面白さだった。それぞれの登場人物をしっかり書き込んだ脚本といいテンポのよい演出といい。お見事。阿佐ヶ谷スパイダースってアゴラとか小さいところでやってた頃は、もっと不条理コントみたいな感じというかシュールな内容だったと思うんだけど、人気がでて動員が増えるにつれてきっちりした脚本書くようになってきてるような気がする。脚本家の志向と客の求めるものが上手く合っている幸せなパターンだと思う。フツー、逆のパターンに陥る脚本家は多いけど。
オープニングから、トラックがつっこんで来るまでの「どんどん加速度をつけてマズイ状態になっていく工場」の描写はテンポよくて傑作。役者の使い方もいいなぁ。トヨミツ役の池田鉄洋さんなんか、いつもと全然違って別人のようだし。ある意味手足を封じ込めるような役ではあったけど、うまくやっていたと思う。中山&伊達コンビの演じるやたらよく泣く前田兄弟もおかしい。松村武氏、大マジな演技が珍しい。ここまでやってるの初めて観たような気が。中村まことさんはあいかわらずとはいえイイ存在感。やっぱりこの人がいると舞台が引き締まる。池田成志さん、新感線とは違ったフツーの演技。影のありそうなところがうまく出てる。
トラックの積み荷(はっきりセリフには出てこなかったけど、“サリンよりもっとヤバいもの”らしい。核廃棄物か何かかな?)に触れた前田望(中山祐一郎)がなんかもうものすごいグロい姿で運び込まれてきたところから雰囲気が一変。それまではどんなに困ったブラックな状態でも笑えていたのだけど、このへんからもうだんだん笑えなくなってくる。終盤、その積み荷を工場内に運び込んだ茅ヶ崎(中村)と蜜雄(松村)、「ああ、多分工場ごと燃やしちゃって終わりなんだろうなぁ」とか思いながらみていたら、一斗缶の中の“それ”をつかみだして茅ヶ崎が食べ始めたのには驚いた。「そうか、食べちまえば残らねぇ」と蜜雄も後に続く。壮絶にもだえ苦しみながら“それ”を食べるふたりの演技に、客席が完全にひきながらのまれている。「食べる」なんて発想、普通思いつかないもんなぁ……。
さて、話題を呼んでいるのはこの後のラストシーン。夏目(池田)も戻ってきて“それ”を食べ始めたところで暗転して「ここで終わりかな」と思ったところで、唐突にトラックがつっこんできた場面に逆戻り。すったもんだの騒動がリセットされていて「実際にはそこまで酷いことは起こらなかったよっていう夢オチ」……かと思うのだけど。これも5分ほどたったところで、茅ヶ崎が不自然に起きあがって夏目に言う、「赦す!」と。ここの演出を見る限り、何もなかった、ただの夢だったと判断するにはちょと不自然。“それ”を食べながら夏目が茅ヶ崎の家族を事故で死なせたことを告白したことが解らないと、茅ヶ崎が夏目を赦そうとすることに結びつかないわけだから。まぁ、このラストが「夏目の夢」だった、茅ヶ崎に許しを請うた夏目の願望だったとみるほうが自然なのかも。ま、どっちに解釈してもいいようになってるんだろうな、多分。観ているうちは「え、このラストシーン、なくてもいいじゃん」と正直思ったのだけど、一日くらいぼんやりそれぞれの登場人物の気持ちとか考えた後では、この「赦す!」はあったほうがいいのかなと思ったり思わなかったり。うーん。まぁ、そうやって後に引きずって印象を残すという意味ではこの物議をかもすラストは成功だったのかな、なんて。まぁこのラストは自分の中でも賛否別れてはいるけれど、それでもその手前までの展開が相当に良かったので、十分満足できた。面白かった。

http://www.spiders.jp/as/hatarakuotoko.asp

北の小さな村に建つ、小さな潰れた工場。そこに未だ出入りする工員たちがいた。理想を求め脱サラして挑んだりんご栽培に失敗し、さらにりんごを包むスチロール、いわゆるりんごパッキン工場にも失敗した工員たち。しかし未だ諦め切れず、何をしていいかもわからず、彼らはずうっとそこにいた。そんな中、一人の消えた工員がとってきた小仕事。トラックの積荷をどこかに捨てるだけで大金が手に入る仕事だった。しかし、積荷には思いも寄らない代物が積まれていて…。
社会的に最低かつ人間的にも余りにもちっぽけ男たちが送る職業スペクタクル。果たして奴らは最後に何を手にするのか。阿佐ヶ谷スパイダース渾身の最新作!