透明人間の蒸気(ゆげ)

2回目の観劇。今回は1階席だったので衣装の新聞までよく見えた。ま、この日のメインは芝居よりも終演後のシアター・トーク*1だったわけだけど。
出演者は野田秀樹氏、美術の堀尾幸男氏、衣装の日比野克彦氏、舞台監督の矢野森一氏、司会はNHKアナウンサーの堀尾正明*2氏。この堀尾氏というのが大学時代に文学座にいたこともあるということで、「あの頃は文学座っていったら演劇界の東大みたいなもんですからね、小劇場なんて……という気持ちがあって遊眠社をみにいかなかったりしてたんですが、あっというまに追い越されちゃいましたね(笑)」なんて話まで出てきたりして、結構可笑しかった。途中で宮沢りえちゃんと阿部サダヲ氏が一瞬登場してシャンペンとだんごを5人にふるまっていたのだけど、このシャンペンで酔ったのか、堀尾アナは「野田さんの芝居って言葉遊びとか多くて……正直、ワケ解らない時ありますよね。責任取って下さいよ」みたいな妙な絡み方をしていたのも可笑しかった。
印象に残った話を少し。今回の舞台の床の素材、足跡がどんどんついていって消えないので、芝居を観てる間も「あの素材何をつかっているんだろう?」と気になっていたのだけど。あれはダンボールを毎日毎日張り替えているのだそうで。一度張り替えたらスタッフも開演までその上を歩けない、バミリ*3が出来ない、だから役者は全部立ち位置など覚えてなきゃいけない(じゃあ阿部さんもあれ全部覚えてるんですか、という堀尾アナの質問に、野田さんは「あいつは適当だけどね(笑)」と答えていたけれど)、ちなみに舞台の奥のほうは一週間に一度くらいしか張り替えてない……とか。
それから衣装について。あの新聞紙の衣装は、本物の新聞紙を使っているのだとか(びっくり)。コーティングした新聞を布の衣装の上に貼り付けているのだそう。破れたところなどは新たに新聞を調達してそれを貼って修復するとか。キャラクターによって新聞紙の内容が違って、ケラとサリババ先生はハングル文字の新聞(そういえば劇中で「わたしらはよそ者だから」というようなセリフがあったなぁ)、アキラは詐欺事件の記事(おれおれ詐欺、という字は読めた)、花岡軍医や愛染かつらたちは昭和16年前後の古い新聞、ロボット三等兵はマンガ、マダムナナはスポーツ新聞、住友花子は金融系の記事、黄泉の国の神様たちは死亡記事……といった具合なんだそうだ。だから、神様の服が破れた時は、死亡記事を捜してきて貼り付けるんだとか。ひー。
舞台の奥行き、あれはものすごく遠くに見えるけど、実際には横幅の二倍程度の長さしかないとのこと。奥行きがあるようにみえるのは照明のマジックなんだとか。ちなみに同じ新国立劇場で新感線の「髑髏城」の美術も担当する堀尾さんによると、「野田さんのよりもっと奥行きがあるように見せたい」と言われたらしく、客席の張り出しを少し多くして奥行きを出すことにした……とか。そんなところで張り合わなくても(笑)。
初演時とラストを変更したのは野田氏自身の「内面の変化」と「社会の情勢の変化」の両面があるそうで。詐欺師が嘘をついていたと生き返るのは、「嘘をつくこと」=「芝居を書くこと」の可能性をあの当時は今よりもっと信じていた、それは20世紀末を迎える前の時代の空気でもあり、自分の若さでもあった。だけど世紀末を乗り越えた今、あのラストは自分にとってもしっくりこない……といった内容だった気が(記憶に頼って要約しているので、ちょっと受け止め方がズレていたら申し訳ない)。

*1:http://www.nntt.jac.go.jp/release/r336/r336.html

*2:http://www.nhk.or.jp/sunday/caster.htm

*3:立ち位置やセットの位置の目印。蓄光テープなどが使われる