エリザベート

取材で舞台稽古を少しだけみてはいたものの、2004年版を通して観るのはこれが初めて。この日のキャストは山口トート、石川フランツ、浦井ルドルフ、藤本エルマー。
うーん、私もこの3年間のあいだにすっかりミュージカル慣れしてしまったのかなぁ。初演の時*1ほど笑えなかった。私は一体この作品のどこが気に入ってあんなに通ったんだろうと自問自答……。いやまぁ、「笑えるかどうか」でこの作品を語ること自体がまず大間違いなんだけど。前回気が狂ったように観ていた割に、今回はかなり冷静に観てしまった。。
まぁ、そうはいってもツッコミどころは随所に。オープニングで登場するハプスブルグ家の亡霊のみなさんがなぜかワカメだかコンブだかを身にまとっている時点で噴き出しそうになったり、新振付はなんだか電気ビリビリ感電ダンスだったり。結婚式の布の演出も……手間取っているのかなんなのか、トートダンサーズさん(以下TD)たちが「一生懸命!」って感じで、なんか微妙。他にもTDが完全に転換の手段になってるシーンが多く、「これじゃトートダンサーズじゃなくて大道具ダンサーズじゃねえか!」と思ったりした。振付も個人的には初演の大島早紀子さんのほうが断然好み。前回はTDが絵的にウルサイと感じることはなかったけれど(というよりむしろあのダンスが好きで通ってたのに)、今回はちょっと絵的に煩わしい箇所も。無駄にやたら踊るのは一緒なんだけど……多分、振付家の美意識の差なんだろうなぁ。そもそも大島さんの振付は耽美と死と退廃の匂いが切っても切り離せないものだったけれど、島崎さんの振付にはそのへんの感覚が感じられない。「死」のイメージとして自分の中にしっくりこないというか、むしろ元気な印象。普通にダンスとして観る分には別に悪くないんだろうけれど。でも時々どーにもこーにも奇妙な振付が散見*2
ほぼ額縁サイズの巨大LEDパネルに写る映像に関してはもうツッコミどころというより失笑もの。そこにいる登場人物の誰よりも巨大化したシシイが映像になり(遠近法をまるで無視!)、木の上からものすごく不自然な体勢で落ちていくというお粗末さ。ああ、初演バージョンの不自然に回る鹿にも確かに笑ったけどさ、電飾でチカチカと走っていく鹿に比べたらなんぼかマシだったさ……。しかし、観客の想像力を奪うような映像の使い方はどーなんだろう。しかもただの映像ならまだしも、歌舞伎町のネオンのようにチカチカと安く光ってるし。あれは美術の堀尾さん的にはOKなんだろうか。せっかくのゴシック調の美術がLEDのせいですっかり安っぽくなってるし。もちろん照明の効果なんか一切無に帰すといっても過言ではないほど。ハプスブルグ家の紋章とか出すんなら、布たらせばいいじゃん、布で! とか思った。舞台という表現形態ではアナログな手段のほうがよっぽど効果的なことが多いと思うんだけど。どーなんだそこんとこ。
あと、ラストの演出もちょっと謎。プロローグとエピローグを繋げて物語の円環を閉じる手法はよくあるけれど、コレ、なんか微妙にズレた閉じ方をしてると思う。エリザベートが棺に入れられるところまではいいとして、ルキーニがその前で成仏してるのはどーなんだという気が。「毎夜毎晩」あのオープニングの裁判を繰り返して、「さぁ、始めよう」と言ったときに亡霊の皆さんがうんざりしてるところを観ると、ルキーニが成仏して召されてしまうのはどー考えてもおかしい。まぁ死ぬのはいいとして、オープニングに戻すなら「首を吊られた状態」に戻らなきゃいけないと思うのだけど。まだ初演バージョンの「トートとエリザベートの愛が成就! 昇天!」のほうが解りやすかったんじゃないかと(それがもともとのオリジナルからかけはなれてるというのはおいとくにしても)。他にも、装置の変更で回り盆を使わなくなったせいで、場面の転換がやたら間延びするところが多かった。まぁ、幕があいてまだ数日しかたってないから仕方ないんだろうけれど、もうちょっとテンポよくさくさくと見せてくれないとダレちゃうなぁ。
キャストについて。山口トートはまぁ、いつも通り。歌い終えるときに握り拳をぎゅっとやるところまで相変わらず。歌はさすがのうまさ。最後通告のところは「さあ、投げるぞ」と投げるために羽根ペンとる、みたいな段取り芝居がちょっと笑える。もうちょっと芝居がなんとかなればなー……ま、憎めないんだけどね。フランツ禅さん、優しい感じ。ラストの「悪夢」のところの必死さがイイ。ルドルフ浦井くん、声も出てるし身体も動くし悪くはない。ただ強いていうなら存在感がまだ物足りない感じ。井上芳雄ルドルフの時はもっと「ルドルフ登場〜マイヤリンク」のところが盛り上がって見せ場になってたような気がするんだけどなー。まぁ演出の変更もあるから一概には比べられないけれど。表情がずっと同じ顔なのもいまひとつ。まだこれから伸びそうな気はしたけれど。良かったのはゾフィ皇太后様。新曲が増えたおかげでタダの悪役ではなくなっていた。死ぬ場面はちょっと泣けるなぁ。

http://www.toho.co.jp/stage/eriz2004/welcome-j.html

作品解説
東宝版初演は、帝劇、2000年6月〜8月の三ヶ月間のロングラン、翌年の帝劇、名古屋、大阪、福岡と四大都市を縦断興行し、チケットが全席売り切れとなる、メガ・ヒットミュージカルとなりました。オーストリア・ハプスブルグ家の溢れんばかりの美しさ、豪華配役陣、絶妙のアンサンブル。高い音楽性は、皆様の心を魅了してやまないでしょう。(中略)またとない、美貌と気品、同時に奔放で自由を求めてやまない魂を兼ね備えた、十六歳の少女が、オーストリア帝国の皇后に迎えられる。それは、数奇な運命の始まりだった…。その皇后の名前は、「エリザベート」。バイエルンのルードウィッヒ二世のいとこ、映画「うたかたの恋」のルドルフ皇太子の母である。十九世紀のウィーン、七百年に及ぶ栄光の歴史を誇る名門ハプスブルグ家に、次々と難題が降りかかる。エリザベートは、その時代をいかに生きたか、その遍歴が死後一世紀を経てミュージカルになったのです。トート<死>という役をクリエイトし、エリザベートの生涯のドラマを鮮やかに、描いた、ミヒャエル・クンツェ脚本・歌詞、シルベスタ・リーヴァイ作曲の名旋律は、音楽の都ウィーンで絶賛を博しました。日本では、1996年から、宝塚歌劇団によるトート役を中心とする独自のバージョンが、大成功を収めました。そして、宝塚版を手がけた演出家の小池修一郎が、日本ミュージカル界の豪華絢爛=夢のキャスト競演を得て、さらに細かく練り上げて作り上げたのが、東宝バージョンです。

*1:http://kisschoco.com/cafe/play/elisa.html を参照のこと。なんだか「エースをねらえ」で内野聖陽氏のファンになった人がこのサイトを観て「エリザ観たい!」って話になってるらしいけど、本当にいいのか、それで……。

*2:そういえば島崎氏が宝塚月組「薔薇の封印」の振付やったときも、時空越えの場面のダンスでちょっと変なのがあったなぁ……