第33回俳優祭

初めての俳優祭。ゴージャスこの上ない「ファン感謝Day」といった感じ。いやー楽しかった楽しかった。ま、昼の部なのでぐだぐだな部分も多少あるにはあったけど。以下、完全にネタバレしてますので、TV放映を楽しみにしてる方は読まないように。

舞踊『華酔木挽賑』
出演は芝翫さん・鴈治郎さん・富十郎さん・吉右衛門さん・梅玉さん・水谷八重子さん・波乃久里子さん・秀太郎さん・段四郎さん・時蔵さん・歌昇さん。しまったオペラグラスもってくるの忘れちゃったよ……。3階席後方からでは芝のぶさんがどこにいるのかわからなーい。とほほー。10分の休憩の間に、模擬店の案内図を頭にたたき込んでると、又五郎さんの挨拶に続いて映画の上映開始。
連鎖劇『奈落〜歌舞伎座の怪人〜』
菊之介さん演じる雑誌記者が三津五郎さんの楽屋を尋ねると、歌舞伎座では若い弟子たちが次々と“神隠し”にあって行方不明になっている。警察(翫雀さん&弥十郎さん)がやってきて歌舞伎座の奈落に降りていくと、そこでは吸血鬼・三津五郎が行方不明になった弟子たちの血をすっていた……という映画。ここで舞台に切り替わり、捕り手に追われた三津五郎さんが花道から登場。大人数相手の立ち回りの後、「長生きできるんならみんな三津五郎さんに噛んでもらおうよ」という話になって一件落着、エピローグの映像に繋がる……という内容。映像部分は家庭用ビデオとかで撮った素人臭い映像じゃないかと正直思っていたのだけど、かなりちゃんとカット割りした映像で見応えあり。これならDVD出たら買う! 楽屋の風景なんかはなかなか見られないところで、役者の演技よりもつい後ろに写ってる部屋の様子を凝視してしまったり。歌舞伎座の資料映像としてもちょっとしたものなんじゃないかな。

しかも、歌舞伎俳優のファンなら楽しい遊びでいっぱい。歌舞伎座の入り口にいる「口番のおっさん」が左團次さんで、登場しただけで笑いが起こる。歌舞伎座の通路では特別出演の“中村清兵衛”こと真田広之さんが挙動不審な雰囲気で刀を振り回していたり。きれいな女形姿の七之助さんの後を追う“付き人のおっさん”が勘九郎さんで、「ぼっちゃんはどーのこーの」とぶつぶついいながら歩いていたり。鴈治郎さんの楽屋にいる“松竹の柳田さん”がなんと玉三郎さん。スーツ姿にちょっと萌えつつ、メガネをきにしていちいち指で直すという小芝居にもくすくす笑いが。市蔵さん演じる床屋にやってくるのはホッケーの服来て頭に包帯を巻いた染五郎さん(ドラマ「プライド」のパロディ)、当然セリフは「メイビー」。「夏雄ちゃん夏雄ちゃん」といいながら團十郎さんの楽屋にやってきた菊五郎さんは、弟子の神隠しまでサポートしてくれる「アバヨの終身保険」を團十郎さんにすすめる(アリコの終身保険のCMのパロディ)。團十郎菊五郎さん、いつもこんな雰囲気なのかなーと思うようなほのぼのしたやりとりが可笑しい。ものすごい上げ底のシークレット靴をはいた刑事・翫雀さんと弥十郎さんは凸凹コンビの刑事。出前に来るラーメン屋の兄ちゃんは獅童さん、廊下で三津五郎に色目を使う不気味な佇まいの“付き人のおばちゃん”は藤山直美さん。倒れた左團次さんのところにやってきた医者、“前財教授”は仁左衛門さん、当然それに従う佃助教授は孝太郎さん。「ちゃんと検査しないと、また医療ミスを……」「君、私は浪花節大学の前財教授だよ、私のいうことをだまって聞いてればいいんだ」といったやりとりは当然「白い巨塔」のパロディ。白衣&メガネのきりりとした仁左衛門さんが格好良すぎてくらくら。そんな様子を眺めてあれこれうわさ話をしているのは橋之助さんや勘太郎さんたち。奈落に降りていくと行方不明になって青ざめたお弟子さんたち……って、弟子のくせに豪華な顔ぶれ。芝翫さんや富十郎さん、段四郎さん、時蔵さん、高麗蔵さん、友右衛門さん、愛之助さん、福助さんなどなど。幸四郎さんは「現場で聞く、バンテリン……」と、なんの脈絡もなくバンテリンの箱持ってアピール。

実演部分に入ると、映画中でスラックスの裾をひきずっていた翫雀さんの裾がものすごい長さに(勧進帳の富樫とかみたいな裾捌きっぷり)。まぁ、映画のテンポの良さにくらべるとやっぱり実演部分はもったりしちゃう感じだけど、歌舞伎座の舞台いっぱいつかった大人数の立ち回りはなかなか楽しかった。ちょっと感動的だったのは映画に戻ってからの最後のエンドロール。歌舞伎座で働く裏方さんたちの映像と、古い舞台映像(多分過去の名優さんたちの映像。といっても私がわかったのは歌右衛門さんとかほんの一部だったけど)が交互に映し出されて、淡々とした映像ながらこれが実に感動的で、ちょっと泣きそうになった。昔の俳優さんのファンだったらきっと泣いていただろうなぁ(実際泣いてるお客さんもいたようだ)。お遊び満載で歌舞伎ファンにしか面白くない内容とはいえ「吸血鬼になってでも舞台に立ちたがる歌舞伎俳優の業」というテーマといい、歌舞伎と歌舞伎座への深い愛を感じる映像といい、これが意外に見応えあったのでした。
今賑歌舞伎座大屋台〜屋台村
さていよいよ1時間の模擬店タイム! ごったがえす人々の間をかき分けて移動。3階ロビーの勘九郎さん&扇雀さんのTシャツ売り場は混んでるので遠目に眺めながら2階へ。ここの幸四郎さん&染五郎さんのTシャツ売り場も人が多すぎて通れない。これも横目に見ながら一階へ移動。仁左衛門さん&孝太郎さんのTシャツ売り場(いつも舞台写真を売ってるエリア)も、とても通れない状態。あの柔らかーい笑顔で次々とTシャツを売る仁左衛門さんの横顔を携帯で撮りながら、一階を一巡。信二郎さんのところでは可愛い隼人くんがじゃんけんゲームでまんじゅう販売。カメラを向けられて緊張気味に笑顔を見せる隼人くんが可愛くてくらり。一階正面では富十郎さんの姿はないものの大ちゃんがテーブルの上にちょこんと座り、「店長」の名札をつけてお菓子の販売。か、可愛いー、って、なに子役めぐりしてるんだ、私は。

一階下手のお食事予約所では亀蔵さんがワイン販売。人が薄かったので亀蔵さんに握手のひとつもしてもらおうかとおもったけど、ワインは飲めないので素通りすることに。と、ハッと気付くと横にいるのは赤ら顔の……しょ、松緑さん!? なんかもうできあがってないか? 怖くて近寄れないよ! どおりで人が薄いと思った。花道では三津五郎さんが「奈落の怪人」姿のままでツーショット撮影していたようだけど、これ見るの忘れたなー。ま、いいか。

地下に降りてみると、地下食堂に入るところが通路が狭くて大混雑。中にはいるまでが一苦労。なんとか中に入ると……おや、予定になかったはずなのに新之助さんが来てるじゃないか。見ると團十郎さんと新之助さんが自ら寿司を握っていて、そのふたりの前に長蛇の列ができてるのだった。こりゃ大変と眺めてるだけにしたけれど、團十郎さんから寿司を購入した会社の娘さんの話によると、「職人さんが一個分だけあけて他の寿司を握っていて、最後の一個を團十郎さんが握ってつめてくれて手渡してくれる」とのこと。なんでもシャリの裏側までワサビまみれになっていて相当鼻につーんと来たそうだけど、それでも「成田屋さん御自ら握った寿司」を食べて感動していた様子。

ごった返す地下食堂を出て二階食堂へ。ここはお遊び広場としてダーツや輪投げなどのゲーム会場。橋之助さんが一番奥でニコニコと巨大だるま落としをやっている。その横にいる芝のぶさん・はしのさんの「成駒屋コンビ」のダーツゲームもほどほどの適度なにぎわい。芝のぶちゃん、次々とカメラを向けられてるけどその都度カメラを見てにっこり微笑んでる。このゲームをやった同僚によると「あのコーナー、女形ふたりだから可愛いのー。はしのさんが『当たり、当たり!』とか言ってくれて、カバン忘れそうになったら『お客さん、カバンお忘れですよー』って」と、マネる口調がまるで女子。私もダーツやればよかったかな。当たるとサンドイッチかおにぎり、はずれるとハンカチ(ハンドタオル?)がもらえたらしい。(どうでもいいけど翌日、この同僚と俳優祭の話をしながら新宿三丁目の駅をあるいていたら中村はしのさんそっくりな人とすれ違った……もしかして、ほ、本人? 声かければよかったかなぁ)

3階に戻って勘太郎さん・七之助さん・男女蔵さんの3人でやってるオークション会場へ。若手俳優の私物にサインを入れて競りをやってる。勘太郎さんが自分のお気に入りの絵本のセットを出品するとき、すごく大切にしてたものみたいで手放しづらそうにしていたのが印象的だった。思わずセリに参加してしまったけど、あっという間に高値がついて競り落とせなかった……。一時間の模擬店タイムも終盤になると、幹部クラスは次の演目の準備でいなくなって閑散。お祭り騒ぎに軽く疲れたので席に戻って一休み。
滑稽俄安宅珍関
仁左衛門さん扮する富樫と、市蔵さん&亀蔵さんが番卒として控える安宅の関。ここを通る人は一芸を見せないと通れない……という設定で、いろんな人が次々やってくるという内容。最初にやってきたのはは弁慶(魁春)と巡礼おつる(左團次)。可愛らしい姿の左團次さんが……怖い。

次は水谷八重子さん・波乃久里子さん・光本幸子さんほか新派の人々が京舞を披露。通り過ぎた後で仁左衛門さんがひとこと「やっぱり本物のおなごはええのぅ」。続いて宣教師(團蔵)率いるゴスペル聖歌隊芝雀松緑亀治郎権十郎・亀三郎・亀寿)登場。しかし一部酔っぱらってる人もいるのか、歌のほうはぐだぐだ。なんかもう全然歌えてないよ……。

続いてロック・グループ氣志團子(きしだんご)として学ランリーゼント姿の5人組(獅童勘太郎七之助・松也・新吾)登場。年配の人に氣志團が解るのかなぁ? とも思ったけれど、フツーにそこそこウケていた。「One Night Carnival」を振り付きで熱唱。「行こうぜ、ピリオドの向こうへ」が「行こうぜ、安宅の関の向こうへ」になっていたのに小さく笑った。他のメンバーよりも腰使ってキレよく踊ってた勘太郎さんに思わず目が吸い寄せられる。う、上手い。暗転で5人が学ランを脱ぐとその下は白スーツ。花道でSMAPの「世界でひとつだけの花」を歌って退場。

続いて「タンカラヅカ」登場。オスカル(福助)、スカーレット(扇雀)、ジャワの踊り子(孝太郎)、バトラー(弥十郎)、トート(高麗蔵)、踊る男S(玉太郎)。踊る男sはフィナーレ用の羽を背負った派手なタキシード姿、トートは白シャツに黒パンツといったシンプルな出で立ち。あぁそこはせめて黒コートか黒マントを……などと思ったりして。6人で「白浪五人男」の稲瀬川勢揃いパロディ。「俳優祭のたびにこの拵え」という福助さん、名乗りの中に「本当はイヤなんだけど」的なニュアンスのセリフがあり、客席中から「本当は好きなくせに」とツッコミを入れるような低い笑いが起こっていたのがおかしかった。

お次は「浅草パラダイス」として勘九郎さん・特別出演の藤山直美さん・柄本明さんが登場。藤山直美さんの若い婚約者という設定で新之助さんが堀越孝俊の名前で登場。手をついてご挨拶をする新之助さんに会場が沸く。「何か一芸やらねば通さぬぞ」という仁左衛門さんに「今日はちょっと勘弁して下さい……」と逃げていたけれど、翌日のワイドショーによると夜の部ではにらみをやっていたらしい。あれま。退場していく4人のリズムに合わせて後ろで小さくリズムをとっている仁左衛門さんが可愛い。最後にカゴにのって雀右衛門さんが登場、ご挨拶をして幕となった。いやー。盛りだくさんの内容にちょっと疲れたけど、楽しかったわー。

http://www.actors.or.jp/haiyuusai/
・舞踊 『華酔木挽賑』(はなにようこびきのにぎわい)藤間勘祖 振付  竹柴正二 脚本
・連鎖劇 『奈落〜歌舞伎座の怪人〜』 (映画+舞台実演)
「連鎖劇」って何?という声が聞こえてきそうですね。「連鎖劇」とは実演中の舞台と、上映する映画の映像とがまじりあって展開する劇の事です。明治末期から大正にかけて人気があったのですが、いまではすっかり耳にしなくなりました。今回はその「連鎖劇」に挑戦。長い俳優祭の歴史の中でも、初めての試みです。「奈落〜歌舞伎座の怪人〜」という題のとおり、歌舞伎座を舞台にしたミステリーです。
・模擬店 企画構成:中村梅玉
・『滑稽俄安宅珍関』(おどけにわかあたかのちんせき) 一幕
見るからに面白い名前の舞台ですね。どうしても通らなくてはいけない、安宅の“珍”関。通るためには、なにか一芸を披露しなくてはなりません。その関所を守るのが、仁左衛門扮する富樫左衛門。その前に、様々な格好をした俳優たちがやってきます。